少林寺拳法の技術カリキュラムには多様性が必要
今日はとても残念なお知らせがあります。去年の12月に入門したH拳士が休眠なさることになりました。
休眠することになった理由なんですが、腰痛の悪化を整形外科医に指摘され、いわゆるドクターストップの形での休眠となります。
ご本人も電話口で大変申し訳なさそうにおっしゃられていたんですが、それ以上にやはり僕の指導方法にも問題があったことを、本当に申し訳なく思っています。
少林寺拳法は老若男女が楽しむことが出来る養行である、と言っておきながら、一方で事前に腰痛のことを聞いていたにも関わらず、かえって腰痛を悪化させてしまう結果となってしまったのは、僕の指導能力の足りなさと知識不足、経験不足の結果だと真摯に受け止めております。
H拳士は休眠となりますので、普段の稽古にはもう参加なさることはありませんが、もし腰の状態が少しでもよくなられたときには、月一度の教室の日だけでも、今度は昇級試験などの足かせがない状態で、ご自分のペースで少林寺拳法を楽しむことが出来る日が来ることを、心から願っております。
■現在の技術カリキュラムに思う■
今回の結果を招いた最大の原因は、やはり「昇級・昇段システム」なんだと思います。
入会した当初、持病の確認をしたときに慢性腰痛のお話を伺っており、初めて受け身をなさった際に、以前大阪高槻道院にいらした60歳過ぎて入門なさったB拳士が腰痛の悪化を理由に、初段取得後休眠なさった経緯を思い出し、そのままでは大変危険と思い、皆さんのご協力の下、交流センターにスポーツマットを導入して、受け身に関する怪我の予防対策を行いました。
修練前のストレッチにつきましても、ある一定の角度以上無理して曲げたりしゃがんだりなさらなくても大丈夫、という指導を毎回心がけてはいたのですが、スポーツマットの導入やストレッチなどの事前予防については、根本的な腰痛対策とは言えませんでした。
なぜならば、少林寺拳法に入会すると言うことは、よほど特別な理由がない限りは、継続して修練に来ている限り、必ず昇級試験を受ける、という「目標」を立てさせられます。
「昇級システム」というのは、少林寺拳法は漸々修学の思想の元、一歩ずつ階段をのぼっていると言うことを実感し、その小さな成功体験を次の目標へ登るための土台とするために設けられている教育システムの大きな柱で、この「昇級システム」を無視して、少林寺拳法の技術の習得はありません。
ですが、現在の「昇級・昇段システム」に基づいた技術の習得カリキュラムは、年少部と一般部の二種類が存在するだけで、一般部は中学生からそれこそ70歳でも80歳でも同じカリキュラムを使用します。
個々人の体力や習熟度合いに応じて、多少指導するペースや内容が変化することはありますが、大きな枠組みとしての昇級・昇段試験に変化はありません。
つまり、昇級・昇段試験を受ける限り、必ず指定された技術については修得している必要があり、中学生だろうと80歳だろうと同じ技術の修得を求められるわけです。
僕はこの「昇級・昇段システム」を意識するあまり、「この技術はやらなくても良い」という柔軟な指導をする事が出来ず、結果として腰痛などの持病があったとしても、「無理しない程度に“頑張ってください”」という指導をしてきました。これが大きな指導ミスでした。
本当に養行であるならば、「その技術は身体に負担がかかるので、やならなくても大丈夫です」と指導すべきであったと、とても反省しています。
具体的に言えば、受け身や廻し蹴り、高蹴り、腕十字固めからの投げなど、「腰をひねる」「着地の衝撃を腰に伝える運動」をしない少林寺拳法の技術修練をすれば、今回の事態は回避できたのだと思います。
ここで大変悩ましいのは、たとえば昇級試験は地区ブロック単位で行っているので、事前に考試員の先生に事情をお話しして、この技術はこうこうこういう事情でやることが出来ません、と伝えることが出来るのかも知れませんが、昇段試験となるとそうはいきません。
技術の数も三級受験とは比べものにならないほど多くなりますし、今の昇段試験のシステムである限り、特定の法形を「やっていない」という状況で試験に臨むのは、やはり大きな問題が生じます。
つまり、現行の試験システムしか選択肢がない場合、持病があったとしても、無理してでも技術の修得を求められるわけです。
■少林寺拳法の技術カリキュラムには多様性が求められる■
こういった問題も含めて、本部では少林寺拳法の教育システムというか、運営システムの構造改革を行っており、その中の一つとして何年か前から「コース制」というものが試験的に導入されております。
僕は去年代務となり、今年から正式に道院長として活動を始めたばかりなので、コース制の具体的な中身についてはそれほど詳しくはないのですが、コース制とは「昇級・昇段を伴わない、少林寺拳法の修練方法」を模索した制度になります。
コース制の中には、「高齢者向け」や「女性向け」といった内容の物があり、「昇級・昇段試験を伴わない」ため、上に書いたような「無理をしてでも技術の修得を求める」といった内容ではありません。
つまり、コース制の中での少林寺拳法の修行というものは、「持病などの理由で特定の技術の修得が難しい」状況の時、「それをやらなくても良い」という判断が出来るため、今回のケースのような問題を事前に回避できるシステム、ということになります。
ただ、コース制も万能ではなく、具体的な成功体験を昇級・昇段システムを用いずにどのような形で実感してもらうのか、という問題があり、本部も「カリキュラムを検討中」ということで、具体的にこうして指導していくように、といった方針が定まっていない。
つまり、60年続いてきた現行システムの別の柱として稼働させるには、まだまだ準備期間中で、ほとんどは道院長の裁量に任せているところであり、現行システムと平行して指導できる道院は非常に少ないのが現状ではある。
今回のH拳士が休眠しなくてはいけない結果になってしまったことは、やはり僕自身が「昇級・昇段システム」に基づいた現行システムに固執してしまった事で招いてしまった結果であることは間違いなく、本当に悔やんでも悔やみきれない思いで一杯です。
大阪高槻道院は今のところコース制の申請はしていませんが、やはり本部がコース制の導入を検討し始めたのと同じ思いを、僕自身もまた今とても感じています。
これからは、「昇級・昇段」だけにはこだわらず、本当に「拳士が望んでいること」をきちんと聞いて、その上で、もし「昇級・昇段」を焦って希望していないときには、まずは本人の希望に出来るだけ添う形での指導を心がけようと思います。
まだまだ経験不足、知識不足の未熟な指導者であるため、至らぬ点も数多くあるかと思いますので、遠慮なく皆さんからこうした方がいいといった、率直な意見を聞かせてください。
それが、道院のため、また今いる皆さんのため、そして将来入会する拳士のためになると思いますので、どうぞよろしくお願い致します。
(北野)